2017年7月4日火曜日

【報告】次回第8回裁判(17.7.4)に向けて準備書面(6)を提出(17.6.9)

前回の第7回裁判(17.5.30)において、裁判長から原告に対し、
「違反行為が何なのか具体的に明確になっていない」
「違反行為と学問の自由の侵害との関係が明確になっていない」
という指摘を受けたので、これを明らかにするために、本件の3つの違反行為がいずれも「不作為の不法行為」である点に注目し、作為義務という観点から3つの違反行為に関する原告主張を検討・整理した準備書面(6)を作成し、提出しました。
合わせて、被告に対し、次回期日までに、この書面で明らかにした原告主張に対する認否を求めたものです(←しかし、これに対し、被告は正面から個別に認否せず、単に、全て一律に「否認ないし争う」としか回答しませんでした〔被告第5準備書面2頁第2〕)。

ともあれ、これは、訴状段階では十分に具体化、明確化できなかった原告の主張事実を、不作為不法行為という特質に即して、具体化、明確化したもので、文字通り、原告の主張事実の集大成です。

原告準備書面(6)のPDF->こちら

         **************

平成28年(ワ)第24543号 損害賠償請求事件     
原  告  柳田 辰雄
被  告  国立大学法人東京大学 

                    原告準備書面 (6)
――不作為不法行為における作為義務及び因果関係について――

                                                       2017年 6月 9日

東京地方裁判所民事第14部合2A係 御中

                                           原告訴訟代理人 弁護士  柳原 敏夫

本書面は、前回期日において、裁判所から出された「違反行為の具体的内容及び学問の自由の侵害との関係」についての質問に関連して、本件の3つの違反行為がいずれも不作為の不法行為である点に注目し、作為義務という観点から3つの違反行為に関する原告主張を検討・整理したものである。よって、被告に対して、次回までに、本書面で明らかにした原告主張に対する認否を求めるものである。

                      目 次
第1、問題の所在
第2、3つの違反行為の要件事実(具体的事実)
1、進行中の教授人事の「停止」
2、「基幹専攻会議で分野変更の審議・決定」を経た上で発議する手続の不存在
3、「分野選定委員会の開催・審議・決定」という手続の不存在
第3、不作為と因果関係
1、問題点の整理
2、本件の違反行為という不作為と学問の自由の侵害(本件学融合の推進が阻害)との関係
3、判例・通説による評価
4、結語

第1、問題の所在


不法行為責任が問題とされる「行為」は、作為・不作為を問わないとされる。本訴で原告が問題とする3つの違反行為はいずれも作為による不法行為を問題としているのではなく、不作為による不法行為を問題とするものである。ところで、作為の場合と異なり、不作為が不法行為となるためには、その前提として作為をなすべき義務があることが必要である(加藤一郎「不法行為」63頁・133頁。幾代通「不法行為」19頁など。以下、不作為による不法行為を不作為不法行為とよぶ)。そこで、不作為不法行為の成立をめぐっては、この作為義務違反の不作為と損害の発生との関係について、判例によれば「不作為の因果関係」が認められるか、または通説(加藤「不法行為」133頁(一))によれば違法性が認められるかが問題となる。そこで、本訴でも次の2点が問題となる。
第1に、本件の不作為不法行為である3つの違反行為ごとに、作為をなすべき義務を明らかにし、当該作為義務違反としての違反行為の要件事実を明らかにすること。
第2に、本件の不作為不法行為である3つの違反行為ごとに、当該違反行為と損害の発生(本件では学問の自由の侵害)との関係について、「不作為の因果関係」または「違法性」が認められることを明らかにすること。

 以下、順次、明らかにする。

第2、3つの違反行為の要件事実(具体的事実)
1、進行中の教授人事の「停止」(原告準備書面(5)第2、2〔5頁〕)(1)、作為義務の内容
教授選考委員会が国際政策協調学(以下、(国)と略称)分野で教授候補者の募集活動等の教授人事を進行中に、当該教授人事を「停止」するにあたって、当該「停止」の前に、発議専攻の国際協力学の基幹専攻会議に「停止」の理由を説明し、その承認を得ること、及び当該「停止」の後に、教授選考委員会を設置した学術経営委員会に「停止」の理由を説明し、その承認を得ることが必要であり、これが第1の違反行為における作為義務である。
なぜなら、もともと教授選考委員会における教員の選考手続は、専攻から学術経営委員会に対する発議に基づき、学術経営委員会が教授選考委員会を設置し、開始されるものである。従って、公募等により募集した教員候補者の中から1名の候補者を最終的に選定できないような教員選考の「不成立」の場合を除き、教授選考委員会が進行中の教授候補者の募集活動を途中で「停止」するという異例の事態が発生した場合には、なぜ途中で「停止」するに至ったのか、その理由を発議専攻の基幹専攻会議に説明し、その承認を得るのが発議専攻に対する当然の責任だからである。また、学術経営委員会に対しても、同様に説明して、その承諾を得るのが当該教授選考委員会を設置した学術経営委員会に対する当然の責任だからである。

(2)、違反行為の要件事実(具体的事実)
 上記の作為義務を前提として、第1の違反行為の要件事実をいわゆる5つのWと1つのHごとに分節して具体的事実を明らかにすると、以下の通りである。

5のW&1のH
①.進行中の教授人事の「停止」
Who(誰が)
教授選考委員会の委員である國島正彦国際協力学専攻長、味埜俊環境学系長及び大和裕幸新領域創成科学研究科長(以下、國島専攻長、味埜系長、大和研究科長という)。
なぜなら、進行中の(国)の教授候補者の募集活動を実際上「停止」した2009年11月11日の教授選考委員会の会議にこの3人が出席していたから。
When(いつ)
2009年10月27日[1]から11月25日にかけて
Where(何処で)
国際協力学の基幹専攻会議及び学術経営委員会の会議
What(何を)
教授選考委員会が(国)分野で進行中の教授候補者の募集活動等の教授人事を「停止」するにあたっては、事前に発議した国際協力学の基幹専攻会議及び事後に教授選考委員会を設置した学術経営委員会に対して「停止」の説明及び承認を経る義務があるにも関わらず、この義務に違反していずれの会議においても上記説明・承認を経ずに募集活動等の教授人事を「停止」した。
Why(なぜ) 
國島専攻長らは(国)から社会的意思決定(以下、(社)と略称)に分野変更を実現するためには、まずは既に進行中の(国)の教授人事を「停止」する必要があったから。
How(どのように) 
國島専攻長、味埜系長及び大和研究科長は共同して、2009年11月11日に教授選考委員会の会議で、同委員会の権限外の議題である「分野を(国)から(社)に変更」を審議・決定することによって。

2、「基幹専攻会議で分野変更の審議・決定」を経た上で発議する手続の不存在(原告準備書面(5)第2、3〔5~7頁〕)

 

(1)、作為義務の内容
国際協力学が学術経営委員会に対し(国)分野で教授選考を発議して、既に進行中の教授候補者の募集活動等の教授人事を「停止」し、あらためて学術経営委員会に別の分野に変更して教授選考を発議するためは、発議専攻である国際協力学の基幹専攻会議で分野変更の審議・決定を経ることが必要であり、これが第2の違反行為における作為義務である。
なぜなら、分野変更手続を定めた次の2つの規則、
①.「申し合わせ」(甲52の2)
注1.「分野およびポスト」の変更が生じる場合は、再度、発議からやり直す。
②.「教員選定手順の概要」(同上)の注意事項1として、
分野の選定[2]のプロセスにおいては、基幹専攻会議の発議の審議の場や分野選定委員会の審議の場等で、
「特に、提案分野が大講座(原告代理人注:専攻化後は専攻のこと)の全体構想の中で必要であることの説明は重要です。」
ここから、分野変更の手続においては、専攻の基幹専攻会議の場で専攻の研究・教育体制の全体構想の中で当該分野の変更が必要であることが審議・決定されることを求めていることが明らかだからである。

(2)違反行為の要件事実(具体的事実)
 上記の作意義務を前提として、第2の違反行為の要件事実をいわゆる5つのWと1つのHごとに分節して具体的事実を明らかにすると、以下の通りである。
5のW&1のH
②.「基幹専攻会議で分野変更の審議・決定」を経た上で発議する手続の不存在
Who(誰が)
國島専攻長及び味埜系長。
なぜなら、専攻が学術経営委員会に分野変更の発議をする場合、専攻長はまず系長にその旨を提案し、了解を得る手続となっている(甲52の2「教員選定手続の概要」1、選考プロセスの全工程の①参照)。そこで、基幹専攻会議で分野変更の審議・決定を経ずに発議した本件の経過について味埜系長も了解していたと解さざるを得ないから。
When(いつ)
2009年11月11日~25日にかけて
Where(何処で)
国際協力学の基幹専攻会議
What(何を)
(国)分野で教授選考を発議して既に進行中の教授候補者の募集活動等の教授人事を「停止」し、あらためて学術経営委員会に分野変更を発議するためは、国際協力学の基幹専攻会議で分野変更の審議・決定を経る義務があるにも関わらず、この義務に違反して上記審議・決議を経ずに発議した。
Why(なぜ) 
この当時、国際協力学では(国)分野で法学・政治学専攻の教授候補者を募集することで意思統一されていたことは、國島専攻長が城山英明東京大学大学院法学政治学研究科教授(乙10添付資料1枚目2008.10.18の「教授候補者の推薦依頼」をした「法学系研究科S教授」のこと)に2009年10月3日に送信した「教授候補者の推薦依頼」メール(甲62)からも明らかである。従って、このような状況下で、国際協力学の基幹専攻会議で分野を(国)から(社)に変更する審議・決定は不可能だったので、國島専攻長らは(国)から(社)に分野変更を実現するためには、基幹専攻会議での審議・決定手続を無視するほかなかったから。
How(どのように) 
國島専攻長及び味埜系長は共同して学術経営委員会に発議.

3、「分野選定委員会の開催・審議・決定」という手続の不存在(原告準備書面(5)第2、4〔7~8頁〕)

(1)、作為義務の内容
学術経営委員会で分野変更するためには、設置された分野選定委員会の会議で分野変更の審議・決定を経る必要があり、これが第3の違反行為における作為義務である、
なぜなら、分野変更の手続として、分野変更の発議を受けた学術経営委員会は分野選定委員会を設置し(甲52の2「申し合わせ」1)、分野選定委員会は、分野変更について審議・決定し、当該審議結果を学術経営委員会に報告する(甲52の2「申し合わせ」3))と定められている以上、分野選定委員会が分野変更について審議・決定するために委員を招集、会議を開催する必要があることは当然だからである。

(2)、違反行為の要件事実(具体的事実)
 上記の作意義務を前提として、第3の違反行為の要件事実をいわゆる5つのWと1つのHごとに分節して具体的事実を明らかにすると、以下の通りである。


5のW&1のH
③.「分野選定委員会の開催・審議・決定」という手続の不存在
Who(誰が)
分野選定委員会の委員である國島専攻長、味埜系長及び大和研究科長。
なぜなら、上記3名は、仮装の分野選定委員会の会議で(国)から(社)に分野変更する審議・決定を経たという虚偽の内容の審議結果報告書(甲18の3・同20の2)に委員長(大和)、学術経営委員会の代表(味埜)、発議専攻の専攻長(國島)として記載されているから。 
When(いつ)
2009年11月25日
Where(何処で)
分野選定委員会の会議
What(何を)
学術経営委員会で分野変更するためには、設置された分野選定委員会の会議で分野変更の審議・決定を経る必要がある(甲52の2)にも関わらず、この義務に違反して上記審議・決議を経なかった。
Why(なぜ) 
もし分野選定委員会の会議を真実、開催すれば、委員である原告が本件分野変更手続に対し、手続的にも(基幹専攻会議の審議・決定手続が不存在)内容的にも(当時、国際協力学では(国)分野で教授選考することで意思統一されていた)異議を唱え事態が紛糾するのが明らかだったので、國島専攻長らは(国)から(社)に分野変更を実現するためには、この手続を無視するほかなかったから。
How(どのように) 
國島専攻長、味埜系長及び大和研究科長は共同して、上記11月25日に分野選定委員会の会議を開催したことを仮装し、仮装の同会議で(国)から(社)に分野変更する審議・決定を経たという虚偽の内容の審議結果報告書(甲18の3・同20の2) を作成することにより。

第3、3つの違反行為と学問の自由の侵害との関係
1、問題点の整理

 最高裁は、不作為不法行為における不作為と結果との因果関係の証明について、ルンバール判決(最判昭和50年10月24日民集29巻9号1417頁)を引用しつつ、医師の不作為と患者の死亡との因果関係の存否の判断においても頃なることがないとし、次のように判示する。
《経験則に照らして統計資料その他の医学的知見に関するものを含む全証拠を総合的に検討し、医師の右不作為が患者の当該時点における死亡を招来したこと、換言すると、医師が注意義務を尽くして診療行為を行っていたならば患者がその死亡の時点においてなお生存していたであろうことを是認し得る高度の蓋然性が証明されれば、医師の右不作為と患者の死亡との間の因果関係は肯定されるものと解すべきである。》(最判平成11年2月25日民集53巻2号235頁[3]
 尤も、この因果関係論に対しては、かねてより、因果関係論は①事実の平面における事実的因果関係と②法的評価の平面における法的因果関係の2つから構成されており、前者の事実的因果関係は事実によって立証可能なものであって初めて判断の対象となるのに対し、判例が問題とする不作為の因果関係とは作為義務という(事実判断とは次元を異にする法的評価の平面である)規範的判断を前提として初めて責任を追及できるものであって、それゆえこの問題は事実的因果関係に含まれないという批判があり(平井宜雄「債権各論Ⅱ「不法行為」83頁(ア)」)、この立場では、この問題は違法性の問題(通説。加藤「不法行為」133頁)、具体的には作為義務の程度または範囲の問題として考える(平井同上)。
 いずれの立場が妥当かは別にして、本件において、3つの違反行為という不作為と学問の自由の侵害(本件学融合の推進が阻害)との関係が問題となっているので、以上の問題意識から吟味検討する。

2、本件の違反行為という不作為と学問の自由の侵害(本件学融合の推進が阻害)との関係①.進行中の教授人事の「停止」

 もし、2009年10月27日から11月25日にかけて、教授選考委員会が(国)分野で進行中の教授候補者の募集活動等の教授人事を「停止」するにあたって、当該「停止」の前に、発議した国際協力学の基幹専攻会議に「停止」の理由を説明し、その承認を得ようとしたならば、国際協力学の基幹専攻会議で上記承認が得られる可能性はほぼ皆無だった。なぜなら、その少し前の9月29日の教授懇談会で、原告が次の通り、(国)分野での教授候補者の募集活動に意欲を示す発言をし、出席者から了解され(その詳細は甲58原告陳述書(4)4頁参照)、この方針に沿って10月26日に駒場を訪問しているからであって、この方針を変更すべき合理的理由がないからである。
《柳田教授が、制度設計講座の3分野将来構想を詳細に提案。また、本件はY総合文化研究科長の任期中にけりを付けたい、と発言》。(乙10添付資料2枚目)
 その結果、国際協力学の基幹専攻会議の上記承認が得られなかった教授選考委員会は(国)分野で進行中の教授候補者の募集活動等の教授人事を「停止」することはできず、その結果、上記「停止」を前提とした(国)から(社)への分野変更もあり得なかった。その結果、(国)分野で選考される新しい教授との間で進めようとしていた原告が掲げる本件学融合[4]の推進も阻害されることもなかった。
 すなわち、教授選考委員会が、発議した国際協力学の基幹専攻会議に進行中の教授候補者の募集活動の「停止」の理由を説明し、その承認を得ようとしたならば、(国)から(社)への分野変更もあり得えず、原告の本件学融合も阻害されず、原告の学問の自由が侵害されなかったことが高度の蓋然性をもって認められる。

②.「基幹専攻会議で分野変更の審議・決定」を経た上で発議する手続の不存在
 もし、2009年11月11日から25日にかけて、(国)分野で教授選考を発議して既に進行中の教授候補者の募集活動等の教授人事を「停止」し、あらためて学術経営委員会に分野変更を発議するために、国際協力学の基幹専攻会議で分野変更を審議し、その決定を得ようとしたならば、国際協力学の基幹専攻会議で当該決定が得られる可能性はほぼ皆無だった。なぜなら上記①と同様、その当時、(国)分野で教授候補者の募集活動が粛々と進められていたのであり、この教授人事を「停止」する合理的理由も、従って、その分野を変更する合理的理由もなく、分野変更が承認される可能性はほぼ皆無だったからである。
 すなわち、国際協力学の基幹専攻会議で、(国)から分野変更を審議し、その決定を得ようとしたならば、(国)から(社)への分野変更もあり得えず、原告の本件学融合も阻害されず、原告の学問の自由が侵害されなかったことが高度の蓋然性をもって認められる。

③.「分野選定委員会の開催・審議・決定」という手続の不存在
 もし、2009年11月25日に、分野選定委員会の会議が開催され、(国)から(社)へ分野変更の審議し、その決定を得ようとしたならば、当該決定が得られる可能性はほぼ皆無だった。なぜなら上記①及び②と同様、その当時、(国)分野で教授候補者の募集活動が粛々と進められていて、その分野を変更する合理的理由はなく、なおかつ分野変更の発議のために国際協力学の基幹専攻会議の審議・決定の手続も経ておらず、当該分野選定委員会の委員である原告がこの2点について異議を唱えるのは明らかであったため、その結果、当該分野選定委員会で分野変更が承認される可能性はほぼ皆無だったからである。
 すなわち、分野選定委員会の会議を開催し、(国)から分野変更を審議し、その決定を得ようとしたならば、(国)から(社)への分野変更もあり得えず、原告の本件学融合も阻害されず、原告の学問の自由が侵害されなかったことが高度の蓋然性をもって認められる。

3、判例・通説による評価

(1)、判例(因果関係論)
 判例は、不作為不法行為と結果の関係について、これを因果関係の問題とし、「作為義務を遵守して作為を行なっていたならば、結果が発生しなかったことを是認し得る高度の蓋然性が証明されれば、上記不作為と結果の発生との間の因果関係は肯定される」とする。
 本件において、前記2で前述した通り、もし作為義務を遵守して作為を行なっていたならば、(国)から(社)への分野変更はあり得えず、原告の本件学融合も阻害されず、原告の学問の自由が侵害されなかったことが高度の蓋然性をもって言うことができる。従って、本件の3つの違反行為という不作為と学問の自由の侵害という結果との間に作為義務を遵守して作為を行なっていたならば、結果が発生しなかったことを是認し得る高度の蓋然性が証明されれば、上記不作為と結果の発生との間の因果関係は肯定される」と認定することができ、よって、不作為不法行為の因果関係を認めることができる

(2)、通説(違法論)
 他方、これを因果関係ではなく、違法性の問題と捉える通説では、いかなる判断基準で違法性を判断するかが問題となる。この点、最新の見解によれば、不作為不法行為ではなんらかの原因から法益侵害に向かう因果系列の進行に関して、不作為による外界の支配操縦が及ぶことを積極的に確認しなければならないとし、これが不作為不法行為における違法性の実質であり、この支配操縦力の存否を「作為義務を遵守してこれに介入していればなんらかの原因から法益侵害に向かう因果系列の進行を阻止しえたであろうこと」で判断する(橋本佳幸「責任法の多元的構造―不作為不法行為・危険責任をめぐって―」2006年)。
 すわなち、「作為義務を遵守して因果系列に介入していればなんらかの原因から法益侵害に向かう因果系列の進行を阻止しえたであろうこと」が認定できれば、不作為不法行為の違法性が認められる。
 本件において、前記2で前述した通り、もし作為義務を遵守して実行していれば、(国)から(社)への分野変更はあり得えず、原告の本件学融合も阻害されず、原告の学問の自由が侵害されなかったことが高度の蓋然性をもって言うことができる。従って、本件の3つの違反行為という不作為と学問の自由の侵害という結果との間に、「作為義務を遵守して因果系列に介入していればなんらかの原因から法益侵害に向かう因果系列の進行を阻止しえたであろうこと」を認定することができ、よって、不作為不法行為の違法性を認めることができる。

(3)、小括
 以上の通り、判例、通説のいずれの立場であっても、本件では不作為不法行為の論点(因果関係又は違法性)について、因果関係又は違法性が認められることが明らかである。

4、結語
 以上から、本件において、不作為不法行為である3つの違反行為と学問の自由の侵害との関係について、判例であれ通説であれ、「不作為の因果関係」または「違法性」が認められることが明らかである。 

以 上

[1] この日、國島専攻長は教授選考委員全員宛に、教授選考委員会の会議を開催する招集メールを送信した(甲12)。
[2] この「分野の選定」に「分野およびポスト」の変更が生じる場合を除外する理由がなく、この「分野変更」の場合も含まれる。
[3] 最高裁HPはhttp://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=52587
[4] その内容は、例えば原告準備書面(5)第3、2(10頁)参照。

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