2016年7月25日月曜日

私が訴えたいこと(東京大学学問の自由侵害裁判の原告) 

                                     平成28年7月25日
              東京大学大学院新領域創成科学研究科 教授 柳田辰雄

 本件は、「学融合」を目指している東京大学大学院新領域創成科学研究科の国際
協力学専攻、制度設計講座において2009年に行われた教授の公募に関連していま
す。教授の公募にあたっては最初にどの研究分野の人を公募するかを決めます。この
研究の分野選定をめぐっては、学問の自由と教育・研究の基本単位である講座の自
律性が深く関わっています。本件では、制度設計講座の社会科学系の分野の教授公
募であったにもかかわらず、その講座の唯一の教授であった私の講座の構想を無視
して、教授達の多数決で分野選定が行われました。のみならず、より根本的な問題は、
この分野の選定の手続では、従来行われていた助教や准教授を含めた専攻会議で
の分野選定に関する議論もへておりません。

 現在、新たな社会科学では、社会は、人々の相互依存と相互作用による意味体系
であると見なすようになっています。そして、この新たな社会科学では、より豊かで、秩
序だった社会はどのようになりたつのかを探求しています。この精神活動は学問の自
由に関わっており、公権力や所属機関などの干渉は許されません。そして、大学院大
学に制度が移行した時代においては、大学の自治の根幹は、講座の運営の統治と自
治にあると考えます。特に、新領域創成科学研究科のように新たな研究領域を確立し
ようとするときには、このことが重要です。

  21世紀にはいり、伝統的な社会科学は歴史的な岐路に立っています。特に、自然
科学を模して、社会は「モノ」からなりたっているとして、「真理」を追求してきた伝統的
な社会科学は、社会の人びとの期待に応えられずに呆然としています。このような時
代背景の中、国際協力学専攻の制度設計講座は、国際社会のよりよいガパナンス、
いいかえれば、統治と自治を研究する講座として、原告の私が構想しました。そして、
この講座では、国際社会のよりよいガバナンスが、政府と株式会社、さらに国際組織の
よりよいガバナンスにより達成されると考えています。この構想は、多数決による教授
人事によって無駄な努力となってしまいました。それゆえに、新しい学問を創出しようと
するときには、学者であっても、専門的知識を持っていない講座における研究分野の
変更に関しては、当該講座や専攻での会議で熟議を重ねる必要があります。

 最後に、法人化された後の国立大学において、講座の改変が進んでいます。
文部科学省からの国立大学へ予算の縮小は、個々の学者、特に社会科学者の学
問の自由を侵害するようになっていることも国民に訴えたいと思います。

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